FX自動売買システムを設計する際の中心となるのが「取引ロジック」です。このロジックは、システムがいつ通貨を売買するか、どのタイミングでポジションを持つかなどを判断するルールの集合体です。適切なロジックを作ることができれば、自動売買システムはより安定して収益を生み出すことが期待できます。本章では、Pythonを使ってシンプルな取引ロジックを設計する方法を具体的に説明し、売買シグナルの生成からエントリー・エグジットのタイミング、そしてリスク管理とポートフォリオの最適化までをカバーします。
最も基本的なFX取引戦略の一つが「移動平均線」を使った戦略です。移動平均線は、ある一定期間の平均価格を計算し、それをもとに価格のトレンドを把握します。例えば、50期間の移動平均線(SMA50)と200期間の移動平均線(SMA200)を使って、短期的なトレンドと長期的なトレンドを比較することで、売買のタイミングを決めます。
基本的な考え方は以下の通りです:
これにより、上昇トレンドの発生時に買いポジションを持ち、下降トレンドの発生時に売りポジションを持つことができます。
import pandas as pd
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# データの読み込み(例として、CSVファイルからデータを取得)
data = pd.read_csv('fx_data.csv', index_col='Date', parse_dates=True)
# 移動平均線の計算
data['SMA50'] = data['Close'].rolling(window=50).mean()
data['SMA200'] = data['Close'].rolling(window=200).mean()
# 買いシグナルと売りシグナルの定義
data['Signal'] = 0
data['Signal'][50:] = np.where(data['SMA50'][50:] > data['SMA200'][50:], 1, 0)
data['Position'] = data['Signal'].diff()
# プロット
plt.figure(figsize=(14,7))
plt.plot(data['Close'], label='Price', alpha=0.5)
plt.plot(data['SMA50'], label='SMA50', alpha=0.75)
plt.plot(data['SMA200'], label='SMA200', alpha=0.75)
# 買いシグナルをプロット
plt.plot(data[data['Position'] == 1].index, data['SMA50'][data['Position'] == 1], '^', markersize=10, color='g', lw=0, label='Buy Signal')
# 売りシグナルをプロット
plt.plot(data[data['Position'] == -1].index, data['SMA50'][data['Position'] == -1], 'v', markersize=10, color='r', lw=0, label='Sell Signal')
plt.title('FX Price with Buy/Sell Signals')
plt.legend(loc='best')
plt.show()
このコードでは、移動平均線を使用して売買シグナルを生成しています。SMA50がSMA200を上回ると買いシグナル(緑色の三角マーク)が、下回ると売りシグナル(赤色の逆三角マーク)が表示される仕組みです。この単純な戦略は、多くのトレーダーによって使用されていますが、他の指標と組み合わせることで、より精度の高いシステムを構築できます。
売買シグナルは、トレーダーが特定の条件を満たしたときに市場に対して「買い」や「売り」の指示を出すきっかけとなるものです。移動平均線以外にも、様々なインジケーターや条件を使ってシグナルを生成することができます。例えば、以下のようなテクニカル指標があります:
例として、RSIを使用した売買シグナルの生成方法を紹介します。
# RSIの計算
def calculate_rsi(data, window=14):
delta = data['Close'].diff(1)
gain = (delta.where(delta > 0, 0)).rolling(window=window).mean()
loss = (-delta.where(delta < 0, 0)).rolling(window=window).mean()
rs = gain / loss
rsi = 100 - (100 / (1 + rs))
return rsi
data['RSI'] = calculate_rsi(data)
# RSIを使った買いシグナルと売りシグナルの定義
data['Signal'] = 0
data['Signal'][14:] = np.where(data['RSI'][14:] < 30, 1, np.where(data['RSI'][14:] > 70, -1, 0))
data['Position'] = data['Signal'].diff()
# RSIをプロット
plt.figure(figsize=(14,7))
plt.plot(data['RSI'], label='RSI', alpha=0.75)
plt.axhline(30, color='g', linestyle='--')
plt.axhline(70, color='r', linestyle='--')
# 買いシグナルと売りシグナルをプロット
plt.plot(data[data['Position'] == 1].index, data['RSI'][data['Position'] == 1], '^', markersize=10, color='g', lw=0, label='Buy Signal')
plt.plot(data[data['Position'] == -1].index, data['RSI'][data['Position'] == -1], 'v', markersize=10, color='r', lw=0, label='Sell Signal')
plt.title('RSI with Buy/Sell Signals')
plt.legend(loc='best')
plt.show()
このコードでは、RSIを使用して売買シグナルを生成し、30以下で「買い」、70以上で「売り」のシグナルを出すシンプルなロジックを実装しています。
売買シグナルが発生したとしても、そのまま全てのシグナルでエントリーやエグジットを行うわけではありません。どのタイミングでエントリー(取引を開始)し、どのタイミングでエグジット(取引を終了)するかは、戦略の成否を大きく左右します。
一般的なエントリー戦略として、以下の2つがあります:
エグジットのタイミングも重要です。主なエグジット方法は以下の通りです:
# シンプルなエントリーとエグジットのタイミング(固定ストップロス/テイクプロフィット)
initial_balance = 10000
balance = initial_balance
position_size = 0.1 # 取引サイズ(例: 1ロット=100,000通貨)
stop_loss_pips = 50
take_profit_pips = 100
for index, row in data.iterrows():
if row['Position'] == 1: # 買いシグナル
entry_price = row['Close']
stop_loss = entry_price - stop_loss_pips * 0.0001
take_profit = entry_price + take_profit_pips * 0.0001
print(f"買いポジションをエントリーしました: {entry_price}")
elif row['Position'] == -1: # 売りシグナル
entry_price = row['Close']
stop_loss = entry_price + stop_loss_pips * 0.0001
take_profit = entry_price - take_profit_pips * 0.0001
print(f"売りポジションをエントリーしました: {entry_price}")
取引ロジックが完成しても、リスク管理を無視しては安定した運用は望めません。FX取引では、取引ごとに発生する損失を最小限に抑え、利益を最大化するためのリスク管理が不可欠です。
risk_per_trade = 0.01 # 資産の1%をリスクに設定
stop_loss = 50 # 50ピップスのストップロス
lot_size = (balance * risk_per_trade) / (stop_loss * 0.0001)
print(f"1回の取引で使用するロット数: {lot_size}")
この章では、シンプルな移動平均線を使った戦略を通して、Pythonでの取引ロジックの構築方法を学びました。売買シグナルの生成からエントリーとエグジットのタイミング、さらにリスク管理までをカバーしました。次の章では、これらのロジックを用いたプロット・バックテストの実装について解説します。
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